読書④ 「斜陽」 太宰治著

第二次世界大戦後の変わりゆく時代に、貴族一家がどのように生き抜いたかを描いた小説。

「没落貴族(貴族が落ちぶれていく様)」という言葉で片づけるにはもったいない。母・姉・弟の三者三様の生き方、それぞれの苦悩や強かさを感じられる小説だった。

 

特にかず子(姉)と直治(弟)の対比は面白い。

戦後、最後まで「貴族」として生き抜いた母を看取ったのち、かず子は自分の内側からにじみ出てくる「野蛮な感情」に従った。そして妻子持ちの上原との子を身ごもり、かず子なりの「革命(古い道徳からの脱出)」に成功する。

対して直治は戦時中にアヘン中毒になる。戦後も酒を飲み、麻薬に手を出し野蛮に振る舞った。貴族ではなく一般階級として、動乱の時代を生き抜こうとわざと下品さを身にまとった。しかし最後は「貴族」として自死する。

 

母、かず子、直治の生き方に優劣はない。

かず子が上原へ宛てた最後の手紙の「道徳の過渡期の犠牲者」という言葉がとてもしっくりきた。