読書⑥ 「掏摸(スリ)」 中村文則著

小説の空気感がすごく好き。

情景描写がどもまでモノクロで濃淡のみが変わっていくよう。

 

主人公(西村)は幼少期から万引きやスリを行い、なかなかな腕前の掏摸師。裕福な者からしか掏らないというこだわりを持っているが、たまにチームを組んで強盗紛いなことも行う。

そんな掏摸師が大きなヤバイ組織の上役(木崎)に目を付けられ、木崎が描く物語通りに操られていく。主人公をはじめ、登場人物にまともな人間はいない。

 

主人公は有名なスリ師の最後が悲惨なものと分かっていながら、自分の最後がどうなるのかを試している。「人生」とか「命」にあまり重みを感じていないタイプ。

 

先端の見えない大きな塔。

それは「善良」「正義」「希望」といった明るい世界のように思えた。若しくは主人公が本当は手を伸ばしてみたかった憧れ(普通)の世界。子供の頃から掏摸をする環境にいた主人公は普通の世界を知らない。塔が見えてた頃は、まだこっちにも引き返せるギリギリのライン。木崎から仕事を受けたあとは塔が出てこなかった。

 

最終章、少しだけ「命」への執着を感じ、塔も見えた。生き残って木崎に仕返しをしてほしい。

 

スリの動作が詳細に表され無意識に財布を盗ってたりするテク持ちの掏摸師だが、石川、立花そしてあの子供と女2人の存在によって、西村が性根は優しいやつなんだとわかる。

 

終始どんよりしている雰囲気だから読んでて疲れる方もいるかも。

読書⑤ 「十五少年漂流記」 ジュール・ヴェルヌ著(波多野完治訳)

小学生や中学生の時に出会いたかった本。

今よりもっとワクワクできたんじゃないかと少し悔しい。

 

 

登場人物はニュージーランドの小学生8歳~14歳の少年15人(フランス人1人、アメリカ人1人、イタリア人13人)。夏休みを利用して6週間の船旅を計画していた(大人と一緒に船旅を予定)。

理由は作中で判明するが、少年15人だけが乗った船が出航してしまい荒波を経て無人島に漂着。2年もの間、無人島で暮らし本国への帰還を目指す。

知識と勇気と希望を持ち続け、みんなで協力し合う男の子心をくすぐる冒険物語。最終章の無人島からの脱出は意外とあっさり。

 

 

海外文学だなと思ったのは、15人で投票を行い「大統領」を選ぶこと。小学生が銃を持って狩猟を行うこと。同じ年齢でも小学校の学年が違う設定な点。国籍間での若干の嫉妬や偏見?が垣間見えるところ。

15人の中でも年長者としてみんなを引っ張っていく存在が

初代大統領のゴードン(アメリカ人)最年長、冷静な判断、慎重

2代目大統領ブリアン(フランス人・主人公ポジション)賢明、勇猛果敢

銃の腕前がピカイチのドノバン(イギリス人)自尊心高め、優等生が故にブリアンに嫉妬

サービス(イギリス人)個人的に気になった人物。ユーモアがある存在。

物語で活躍しているのがフランス人(著者もフランス人)のため、アメリカやイギリスでは「十五少年漂流記」は日本ほど人気ではないようだ(事実かどうかは不明…)。

 

 

小学生・中学生くらいなら細かいことは気にせず、ただただこの空想にふけっていただろうな。

 

読書④ 「斜陽」 太宰治著

第二次世界大戦後の変わりゆく時代に、貴族一家がどのように生き抜いたかを描いた小説。

「没落貴族(貴族が落ちぶれていく様)」という言葉で片づけるにはもったいない。母・姉・弟の三者三様の生き方、それぞれの苦悩や強かさを感じられる小説だった。

 

特にかず子(姉)と直治(弟)の対比は面白い。

戦後、最後まで「貴族」として生き抜いた母を看取ったのち、かず子は自分の内側からにじみ出てくる「野蛮な感情」に従った。そして妻子持ちの上原との子を身ごもり、かず子なりの「革命(古い道徳からの脱出)」に成功する。

対して直治は戦時中にアヘン中毒になる。戦後も酒を飲み、麻薬に手を出し野蛮に振る舞った。貴族ではなく一般階級として、動乱の時代を生き抜こうとわざと下品さを身にまとった。しかし最後は「貴族」として自死する。

 

母、かず子、直治の生き方に優劣はない。

かず子が上原へ宛てた最後の手紙の「道徳の過渡期の犠牲者」という言葉がとてもしっくりきた。

読書② 「AXアックス」 伊坂幸太郎著

終盤の伏線回収が凄まじい。

 

主人公〔兜〕は文房具メーカー社員 兼 殺し屋 兼 恐妻家。

前半はただの殺し屋〔兜〕の短編小説。

最終章で息子視点の物語となり、怒涛の伏線回収が始まる。

そして最後は妻・息子への愛情深さがぎゅっと詰め込まれた小説。

 

前半部分は話の起伏が少なく、読むのを止めようかと何度も思った。

今1冊を読み終えた感想は「これは再読するな」だ。

 

読書① 「砂漠」 伊坂幸太郎著

「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」

この一言に惹かれた。

大学生5人による青春ストーリー

「私」とは違う価値観もの見方をする人と触れ合う大切な時間

自分と合わないなと簡単に離れることもできる中で、互いに認め合う経験自分の幅を広げるとともに、社会では大いに役立つ意識だと思う。

伊坂幸太郎さんの本は今回初めて読んだが、登場人物個性と互いの関わり方がとても面白く描かれていた。

他の作品も読んでみたい。