小説の空気感がすごく好き。
情景描写がどもまでモノクロで濃淡のみが変わっていくよう。
主人公(西村)は幼少期から万引きやスリを行い、なかなかな腕前の掏摸師。裕福な者からしか掏らないというこだわりを持っているが、たまにチームを組んで強盗紛いなことも行う。
そんな掏摸師が大きなヤバイ組織の上役(木崎)に目を付けられ、木崎が描く物語通りに操られていく。主人公をはじめ、登場人物にまともな人間はいない。
主人公は有名なスリ師の最後が悲惨なものと分かっていながら、自分の最後がどうなるのかを試している。「人生」とか「命」にあまり重みを感じていないタイプ。
先端の見えない大きな塔。
それは「善良」「正義」「希望」といった明るい世界のように思えた。若しくは主人公が本当は手を伸ばしてみたかった憧れ(普通)の世界。子供の頃から掏摸をする環境にいた主人公は普通の世界を知らない。塔が見えてた頃は、まだこっちにも引き返せるギリギリのライン。木崎から仕事を受けたあとは塔が出てこなかった。
最終章、少しだけ「命」への執着を感じ、塔も見えた。生き残って木崎に仕返しをしてほしい。
スリの動作が詳細に表され無意識に財布を盗ってたりするテク持ちの掏摸師だが、石川、立花そしてあの子供と女2人の存在によって、西村が性根は優しいやつなんだとわかる。
終始どんよりしている雰囲気だから読んでて疲れる方もいるかも。